函館市の大間原発反対訴訟

OPINION
記者の目:函館市の青森・大間原発反対訴訟=鈴木勝一(北海道報道部<在・函館>)

毎日新聞 2014 年 04 月 22 日 東京朝刊

 

「蚊帳の外」自治体の怒り
青森県大間町で進む大間原発の建設をストップさせようと、北海道函館市が今月3日、国とJパワー(電源開発)を相手に建設差し止めや原子炉設置許可の無効確認などを求める訴訟を東京地裁に起こした。自治体による全国初の原発建設差し止め訴訟だ。函館市が訴訟という手段を選んだのは、大間原発の問題を津軽海峡エリアのローカルな問題で終わらせないためだ。提訴を機に、国内すべての原発やエネルギーの在り方について、国民的な議論が起こることを強く願う。

函館市と大間町は最短で約20キロの距離にあり、古くから一つの文化圏をつくる。ともに津軽海峡の海の恩恵を受け、結婚式や買い物、通院などで行き来してきた。だが、ひとたび大間原発の問題になると、函館市民が建設反対を声高に訴えるのとは対照的に、大間住民は一様に口が堅く、本音を語る人はほとんどいない。町人口の約1割が原発関連の仕事に携わり、一般会計予算の約2割を原発交付金に頼る大間町には、建設中止は死活問題となるからだ。

無視はできない大きな事故被害

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大間原発から半径50キロ圏に北海道側は函館を中心に約37万人、青森側は約9万人が暮らす。函館市は大間住民の実情を理解しながらも、原発事故が起きれば函館が大きな被害を受ける現実を無視して街づくりはできないとして、提訴に踏み切った。函館市の工藤寿樹市長は東京電力福島第1原発事故後、旧基準に基づいて大間原発建設を再開する理由を国とJパワーに何度も求めたという。だが「何の説明もない。裁判以外にできることは全部やった」と話す。

訴訟では、人ではなく組織である函館市に原告の資格(原告適格)があるかが一つの争点。環境破壊防止という公益目的の訴訟で自治体に原告適格が認められた例はないからだが、国とJパワーは訴訟を受け止め、函館市の訴えに正面から答えるべきだ。

工藤市長は昨年7月、福島第1原発事故で避難を余儀なくされた福島県の南相馬市や、二本松市に作られた浪江町役場の事務所を訪ね、私も同行取材した。いずれの町も原発から30キロ圏内にあり、函館市と似ている。放射能に汚染された地域は立ち入り制限で復興が遅れ、がれきなど津波の爪痕が生々しく残り、店はどこも閉じていた。ゴーストタウンと化した函館市を想像し、足がすくんだ。工藤市長は「避難の難しさを感じる。我々はもっと人口を抱えている。逃げるすべはあるのだろうか」とつぶやいた。

避難計画の策定、住民多くて困難
国は原発から30キロ圏内の自治体に、住民の避難先や避難手段などを定めた避難計画を作るよう義務づけた。しかし、函館市は南から来る放射能に対して北に逃げる幹線道路は2本しかない。市は「バスや鉄道をフルに使ったとしても、数十万人の住民らを避難させるのは全く非現実的。計画の立てようがない」として避難計画の策定作業に手をつけられずにいる。

避難計画は全国の自治体で策定が進んでいる。だが、新規制基準に含まれないため原子力規制委員会の審査対象外で、実効性を客観的に評価する仕組みになっていない。函館市のように、避難住民が多すぎてそもそも計画の策定作業に入れない自治体も多い。

国は今月11日、原発を「重要なベースロード電源」と位置付けるエネルギー基本計画を閣議決定し、再稼働に向けた環境を整えつつある。しかし、国の原子力政策に欠けているのは、事故時に放射能の影響を受けるであろう自治体の意向を反映させる視点だ。

函館市は「国や電力事業者から十分な説明があり、その結果、市民が将来のエネルギーとして原発を選ぶのなら、それも一つの選択」との考えで、反原発、脱原発ありきではない。問題にしているのは、何も説明せず、地元自治体や住民不在のまま、あまりに過酷な被害をもたらす原発の建設を強引
に進める国と電力事業者の姿勢だ。

茨城県東海村や静岡県御前崎市など各地の原発立地地域で、周辺自治体を電力会社との安全協定締結の対象とするよう求める動きが広がっている。その根底には、住民の命と暮らしを守る役割を負いながら、原発政策の蚊帳の外に置かれている自治体の怒りがあると、提訴を見て感じる。

函館市は、自治体へのさまざまな権限を握る国を訴えるのは「苦渋の決断だった」という。福島事故から3年が過ぎ、原発への関心は薄れてきている。だが、事故が突きつけた問題は何も解決されていないと、訴訟を通じて改めて知ってほしい。